弄っていた携帯を置き、ふかふかなソファーに寝そべる。ヒンヤリとした革の生地が肌に気持ちいい。クッションに顔を埋めて目を閉じると、頭に大きな掌が被さった。よしよしと優しく撫でられる。 色々気持ち良すぎてこのままだと寝そうだ。 「眠い?」 低くて甘い声が鼓膜を擽ぐる。 「…んー…」 曖昧な返事をすると直江の笑う気配がした。 「そこで寝るとクーラーが直接当たるから頭痛くなりますよ」 「でもここ涼しいー…」 ゴロンと横向きになると、直江がさっき使っていたパソコンが目に映った。 夏休みにまで学校行って仕事もらってくるなんて、大変なんだな先生ってのは。ファイリングされた書類の束を見て、若干教師の認識を改める。 「仕事終わった?」 「ええ大方」 「んじゃコーヒーいれてくる」 「いや、後でいいですよ」 立ち上がりかけた腕をやんわり掴まれる。行くに行けないので再びソファーに寝転がった。 「高耶さんは夏期ゼミ受けないんですか?」 「んぁ?…あーだって入構代5千円とか高いし。ダルいし」 「俺の授業受けて欲しかったのにな」 「へぇ今年は日本史もゼミやんのか」 去年は確か無かったような。ゼミとか興味なかったから自信はないけど。 パラパラと頬に落ちる髪を耳に引っ掛けられる。そのまま親指で頬を擽ぐるように撫でられた。 「あなたがいると授業がはかどるんです」 「あほか。全部真面目にやれって」 「はは。まー何事もそれなりが大事ってね」 「いいじゃん、家で教えてくれれば。代わりに部屋の掃除とかするし」 意気揚々と提案したが首を横に振られる。良い案だと思ったんだけど、やっぱそういうズルはだめか。 「固いおっさんだなー」 「いやそうじゃなく、掃除はいいんで毎日家に来てくれませんか」 「………へ」 「夏休み毎日っていうともう、同居って感じになるけど」 あぁ、同棲の方が正しいか、と言ってニヤリと笑う顔に口が引きつる。 「…は!?ど、どどどど、」 「ん?」 「どーせーって…、いや…」 ソファーから起き上がり無意味を前髪を整える。予想外の展開だこれは。いや、これまでだって平日も休日も泊まりに来てたけども。 「…いいのかよ?」 「よくなかったら最初から言いませんよ」 お願いします、と念を押される。おまけに学校の女子が見たら即倒しそうな甘い笑顔付きだ。 …これ断れる奴いんのか。 ソファーの下に座る直江に見つめられるが視線を合わせず頷いた。 「いいけど…あんた宿題手伝えよ」 「俺あなたの担任ですよ?」 「あー忘れてた」 そういえばそうだった。 「でも解らないところは聞いてください。あなたに頼られると嬉しいんです」 「そん…、」 言い返そうとしたが、近づく真面目な顔に口を閉じる。 目をつむると噛み付くようにキスをされた。 「ん…」 涼しいクーラーの下でもその唇は熱く、お互いの熱を交換するようにすり合わせる。首に腕を回したい衝動に駆られるが我慢した。抱き締められたらきっと、もっと触れて欲しくなる。 密着する胸板に両手をついて押しのけると、唇はあっさり離れていった。 「コーヒーいれてくるっ」 「はい」 今度は腕を掴まれない。 台所でポットを掴み、ゆっくり深呼吸をした。 いきなりのキスは本気で心臓に悪い。カップにお湯を注いで心拍数を整える。この調子で夏休み毎日って、色々大丈夫か俺。 「あっそうだ。高耶さん、明後日は用事ありますか?」 「?いや…分かんねえけど多分ない」 「ならよかった。明後日の午後は空けておいてくださいね」 明後日?ってなんかあったっけ。 カウンターテーブルに立て掛けてあるカレンダーを見る。今日は21日だから、明後日は23日…23。 「…あ」 今月の23日って――俺の誕生日じゃん。 next |